FIELD REPORT / 002

ASN KNIT CARE PROGRAM

NICEFOLKS, Karuizawa
Absorption / Soap / Neutralize
May 2026
ハナダイコンとスターチス
ハナダイコンとスターチス。Absorptionによって水が再び内部へ通り、花はゆっくりと自然に開いた。

軽井沢5月。NICEFOLKSに置かれたハナダイコンとスターチスに、ASN KNIT CARE PROGRAMの最初の工程「Absorption」を行ったところ、花はゆっくりと自然に開いた。

植物は、内部へ水が通ることで、本来の形を取り戻していく。そしてそれは、ニット、とりわけウールやカシミヤのような獣毛繊維も同じだと考えている。

乾いた繊維へ急いで洗剤を入れるのではなく、まず水をゆっくり通し、繊維の状態を整える。Absorptionとは、水の通り道を整え、止まりかけていた流れを戻すための最初のアクションである。

CHAP.01

A / ABSORPTION

吸水は、洗浄前に繊維の通り道を整える工程である

乾いた獣毛繊維は、表面の油分、スケール構造、撚り、編地密度の影響によって、水が内部まで均一に入りにくい状態にある。

ASN KNIT CARE PROGRAMでは、まず浄水に浸し、そこへaulico 平原氏が開発したブドウ糖系サプリメントを加える。水分を抱え込みやすい性質を利用し、水が繊維へ馴染む工程を補助するためである。

ここで重要なのは、洗うことではない。洗浄の前に、繊維内部へ水を通し、硬く止まっていた流れを戻すこと。Absorptionは、後のSoapとNeutralizeの精度を決める最初のアクションである。

Absorption工程でニットを水に沈める様子
Absorptionの開始。乾いたニットを水へ沈め、まず繊維全体へ水を馴染ませていく。
Absorption工程で手の圧をかける様子
手の圧でゆっくり沈める。力で揉み込むのではなく、水が入る時間を作る。
Absorption液を準備する様子
ブドウ糖系サプリメントを用いたAbsorption液。目的は洗剤を先に効かせることではなく、水の通り道を作ることである。

TECHNICAL NOTE:Absorptionは単なる浸け置きではない。水の通り道を整え、後工程の洗浄と安定化が無理なく作用する状態を作るための工程である。

CHAP.02

S / SOAP

洗浄は、力で落とすのではなく、流れで動かす

Absorptionによって繊維内部まで水が通った後、Soapの工程へ入る。

ここでは、汚れを削り落とすのではなく、水によって動きやすくなった皮脂や汚れを、マイルドな洗剤で包み込みながら繊維から離していく。

重要なのは、こすらないこと。ウールやカシミヤのような獣毛繊維は、濡れた状態で強い摩擦を受けると、フェルト化、硬化、毛羽立ちを起こしやすい。

押す、沈める、軽く揉む。その程度の動きで十分である。洗浄とは力ではなく、水と洗剤の流れを制御する工程である。

Soap工程で水流と手の動きを使う様子
Soap工程。こすらず、手の動きと水流で汚れを動かしていく。
Soap工程で生地をやさしく動かす様子
生地を引っ張らず、流れに沿って動かす。力ではなく、水と洗剤の通り方を整える。

TECHNICAL NOTE:中性から弱酸性寄りのマイルドな洗剤を使い、物理的な摩擦を抑えることで、縮み、硬化、風合い変化のリスクを小さくする。

CHAP.03

N / NEUTRALIZE

中和・安定化は、洗浄後の繊維を落ち着かせる工程である

Soapの工程を終えた後、最後にクエン酸水溶液で繊維を弱酸性側へ整えていく。

ASNでは、この工程を単なるすすぎとは考えていない。洗浄によって一時的に不安定になった獣毛繊維を、本来の安定帯域へ戻し、風合いと組織を落ち着かせる工程である。

強く絞るのではなく、ゆっくり圧をかけながら大枠の水だけを抜いていく。その後、編目の方向に合わせて生地を軽く振り、目面と組織の流れを整える。

Neutralize工程でクエン酸水溶液を準備する様子
Neutralize工程。クエン酸水溶液によって、洗浄後の繊維状態を弱酸性側へ整える。
水分を抜きながらニットを持ち上げる様子
強く絞らず、持ち上げながら大枠の水を払う。編地への局所的な負荷を避ける。
ニットを持ち上げて目面を確認する様子
持ち上げて目面を確認する。編目方向に合わせて、組織の流れを整える。

TECHNICAL NOTE:Neutralizeは柔軟加工そのものではない。洗浄後のpHを弱酸性側へ整え、繊維表面と編地構造を安定させるための工程である。

CHAP.04

DRYING / STRUCTURE

乾燥は、編地構造を崩さず戻すための最後の判断である

一般的にニットは、水を含んだ状態でハンガー干しを行うと、重力による伸びや型崩れが起きやすい。そのため通常は、平干しが最も安全な乾燥方法とされる。

しかし今回のASN KNIT CARE PROGRAMでは、Absorption、Soap、Neutralizeの各工程によって、繊維内部の水分状態、編地テンション、目面の流れを整えながら処理を行っている。

そのため、袖付け位置やパーツごとの接ぎ方向を目安にすれば、ハンガー干しでも局所的なテンションが集中しにくく、製品へのストレスは非常に少ない状態に保たれていた。

重要なのは、ハンガー干しを一般化することではない。製品の構造、重量、糸の性質、編地の戻り方を見ながら、その製品にとって最も負荷の少ない乾燥方法を選ぶことである。

ハンガーで形を確認している様子
ハンガーで形を確認する。袖付け位置、肩線、パーツごとの接ぎ方向を目安に、編地へ過度なテンションが集中しないように整える。
CHAP.05

ASN / KIT

水を通し、汚れを動かし、最後に繊維状態を整える

ASNとは、Absorption、Soap、Neutralizeの3工程をひとつの流れとして設計した、ウールニットのためのケアプログラムである。

今回使用したキットは、このプログラムのプレゼンターであるaulico 平原氏が開発したサプリメントを含むものである。

Absorptionで水を通し、Soapで汚れを動かし、Neutralizeで繊維状態を整える。ASNの価値は、それぞれの薬剤や工程が単独で存在することではなく、それらがひとつの流れとして接続されている点にある。

ASN KNIT CARE PROGRAMのキット
ASN KNIT CARE PROGRAMのキット。Absorption、Soap、Neutralizeの3工程を、一連のプログラムとして扱う。
FIELD NOTE

PLOTOTYPEとしての結論

今回のASN KNIT CARE PROGRAMは、単なる家庭洗濯の方法ではない。水、洗剤、酸性側への安定化を、獣毛繊維の状態変化に合わせて連続的に扱うためのプログラムである。

実際にプログラム後に乾燥した製品は、目面の乱れや大きな形崩れがほとんど見られなかった。むしろ、目面は整い、透明感、存在感、風合いの柔らかさが増していた。

この結果は、特別な薬剤だけによるものではない。最初に水を通し、摩擦を避け、弱酸性側で繊維状態を落ち着かせ、乾燥時のテンションを読む。その一連の判断によって、ニットは本来の構造へ静かに戻っていく。

PLOTOTYPEにとって、ケアとは後処理ではない。素材と構造を長く保つための、もう一つの設計工程である。

乾燥後の製品
プログラム後に乾燥した製品。目面、落ち感、輪郭が整い、素材の存在感がより明確になっている。
NICEFOLKS店内と花
NICEFOLKS, Karuizawa。花、店内、製品、そして水を扱う時間が、素材と構造を見つめ直すための静かな場を作っていた。

Text & Photography: Tsukasa Chiba

Recorded at NICEFOLKS, Karuizawa / May 2026

PLOTOTYPE — Studies in Material and Structure.