FIELD REPORT / 001

MARUTO MERIYASU

Date City, Fukushima
Low Gauge Knitwear / Production Record
April 2026
マルトメリヤス入口看板
入口看板。住宅地と商店が混在する街区の中に、ニット工場としての所在を示す最小限の表示が残る。

福島県伊達地方は、養蚕を背景に繊維産業が育ち、戦後には横編メリヤスの産地として発展してきた地域である。現在も伊達市周辺には、規模は大きくないが、横編、仕上げ、検品、サンプル対応を担うニット工場が残っている。

マルトメリヤスは、その産地文脈の中に位置する小規模ニット工場である。今回確認した現場機能は、3ゲージ・5ゲージを中心としたローゲージ横編、仕掛品管理、天然アザミを用いた表面加工、ワイヤー型によるセット、蒸気設備、編成データ確認、型紙と製品サンプルを用いた現物判断である。

同工場は、量産効率だけで評価される工場ではない。KAPITAL、visvim、COMME des GARÇONSに代表されるような、素材感、古着的な粗さ、構造的な違和感、仕上げのニュアンスを重視するアルチザン系ブランドのサンプルや生産に関わってきた背景がある。

ここで重要なのは、特殊な一工程ではなく、編み、加工、セット、検品、修正判断が近距離で循環していることである。本稿は、現場に残る設備、道具、工程距離、役割分担、判断の戻り方を記録する一次資料である。

CHAP.01

LOCATION / REGIONAL CONTEXT

伊達地方の産地構造に残る、小規模横編工場

マルトメリヤスは、大規模な工業団地ではなく、住宅や店舗が近い街区の中にある。外部から確認できるのは、看板、外壁、細い通路、搬入口、作業車両である。

この立地は単なる外観情報ではない。小規模ニット工場では、編み、保管、仕上げ、検品、修正が一棟内または近距離に置かれることで、現物確認の速度が保たれる。工程が遠く離れるほど、編地の状態、寸法変化、風合いの違和感は伝達されにくくなる。

大量生産型の工場は工程分業と標準化で効率を出す。一方、マルトメリヤスのような現場では、工程距離の短さ、作業者の経験、現物に対する即時判断が品質維持の条件になる。これは近代的な管理システムとは異なるが、少量・高感度な製品開発では重要な生産構造である。

マルトメリヤス建物脇通路
搬入口に続く通路。外部動線、作業場、車両、資材置場が近接し、編み上がり後の移動距離が短く保たれている。
CHAP.02

FACTORY FLOOR / WORK IN PROGRESS

仕掛品の置き方が、工程の連続性を示す

工場内部では、編み上がり後の仕掛品、糸、仕様紙、マネキン、段ボール、作業台が同じ空間内に置かれている。整理された展示空間ではなく、製品化の途中段階がそのまま見える生産現場である。

ローゲージニットは、編み上がり直後に完成形が確定しない。編地は厚みと重量を持ち、度目、糸の戻り、仕上げ後の縮み、表面加工による変化が寸法と見え方に影響する。したがって、編み上がったものを一度置き、状態を確認し、必要な後工程へ戻す場所が必要になる。

仕掛品が現場内に留まっていることは、在庫の乱雑さではなく、工程判断のための中間状態である。ここでは、編地を見て、触り、次の工程に進めるか、修正するかを判断するための距離が保たれている。

マルトメリヤス工場内の仕掛品
編み上がり後の仕掛品。起毛、セット、検品へ移る前段階として、編地の状態が現場内で保持される。
CHAP.03

FLAT KNITTING / LOW GAUGE

3G・5Gのローゲージは、機械性能と後工程の読みで成立する

現場には島精機製の横編機が確認できる。島精機は和歌山を拠点とする横編機メーカーであり、コンピュータ横編機、WHOLEGARMENT、CAD/CAM関連技術を展開する国際的なニット機械メーカーである。

3ゲージ・5ゲージを中心とするローゲージ領域では、太い糸、厚みのある編地、重量感のある製品を扱う。高密度で薄いニットとは異なり、目の大きさ、糸の戻り、重量、伸縮、着用時の落ち感が強く出る。

この領域では、機械が編めることと、製品として成立することは別である。編み上がり後にどの程度縮むか、表面加工でどこまで毛羽が立つか、セット後にどの位置で寸法が安定するかを読む必要がある。横編機は単独設備ではなく、後工程と組み合わせて初めて評価できる。

小規模工場の強みは、機械の台数ではなく、変化を読める現場の近さにある。編み、確認、修正、仕上げが同じ空間内で接続されることで、試作段階の細かいズレを戻しやすい。

島精機製横編機の近景
島精機製横編機の針床周辺。針、糸道、度目、給糸テンションが、ローゲージ編地の安定性に直結する。
横編機と糸供給設備
横編機と糸供給設備。複数の糸を扱いながら、柄、寸法、編地の状態を確認する。

TECHNICAL NOTE:ローゲージニットは、糸の太さや見た目の迫力だけでは評価できない。度目、テンション、編地の戻り、仕上げ後寸法、着用時の落ち感まで含めて制御する必要がある。

CHAP.04

DATA / VETERAN OPERATION

編成データは、現場経験によって製品へ変換される

横編工場では、機械に入力される編成データが製品の土台になる。しかし、データは単なる数値ではない。糸の太さ、伸縮、柄位置、口位置、減らし目、接ぎ位置、仕上げ後寸法を前提に、現場で扱える構造へ変換される必要がある。

マルトメリヤスでは、編成データや機械側の調整は、長く現場に関わるベテラン社員の判断に支えられている。東海林社長は、顧客対応、工程全体、製品確認をつなぐ立場にあるが、データ作成や機械側の細部判断を担うのは現場の熟練者である。

ここを混同してはいけない。小規模工場の強さは、一人の職人的才能だけではなく、社長、ベテラン社員、機械、型紙、仕掛品が近い距離で接続されることにある。

ベテラン社員による編成データ確認
ベテラン社員による編成データ確認。紙の仕様と機械側の編成条件をつなぎ、現場で成立する構造へ変換する。
CHAP.05

SURFACE FINISHING / TEASEL

起毛は特殊演出ではなく、編地表面を調整する工程である

天然アザミによる起毛は、この工場を特徴づける工程の一つである。ただし、その価値は珍しい道具を使っていることだけではない。重要なのは、編地の状態を読み、表面をどこまで動かすかを判断する点にある。

起毛とは、編地や織物の表面繊維を機械的に引き出し、毛羽、空気層、陰影、触感を作る整理加工である。天然アザミは均一な工業部材ではない。一本ごとに棘の状態が異なり、摩耗も進む。そのため、使う側には状態確認と調整が求められる。

ローゲージ編地では、起毛によって表面が変わるだけでなく、厚み、柔らかさ、見え方、重さの印象が変化する。荒さを残すのか、品よく整えるのか、目面を残すのか。起毛は製品表情を決めるが、同時に編地を壊すリスクも持つ工程である。

起毛に用いる天然アザミ
起毛に用いる天然アザミ。均一な消耗部材ではなく、状態確認を伴う道具として扱われる。
アザミ起毛機
起毛機に装着されたアザミ。天然素材の個体差を前提に、編地表面への当たり方を調整する。
CHAP.06

FORM SETTING / WIRE FRAME

製品の輪郭は、編み上がった後に再構成される

ローゲージ編地は厚みと重量を持つため、編み上がった時点で製品輪郭が安定するとは限らない。仕上げ後の寸法、落ち感、袖や身頃の位置、全体のシルエットを成立させるには、セット工程が不可欠である。

壁面に保管されたワイヤーフレームは、製品ごとの輪郭を再現するための型である。これは単なる補助具ではなく、ニット製品の形状を現場で保持するための生産道具である。

製品はワイヤー型に合わせられ、蒸気、熱、乾燥を通して形を整える。この工程は後処理ではない。ローゲージニットにおいては、編み立てと同じくらい製品の見え方を決める構造工程である。

壁面に保管されたワイヤーフレーム
壁面に保管されたワイヤー型。製品ごとの寸法と輪郭を、仕上げ工程で再現するための道具。
ワイヤー型を使ったセット作業
セット工程。ワイヤー型に合わせ、蒸気と熱を用いて編地の形状を安定させる。
CHAP.07

TOOLS / UNRAVELING

編地を解く道具が示す、修正を前提にしたものづくり

工場内には、編地を解くための木製器具も残っている。これは完成へ一直線に進むための道具ではなく、修正ややり直しを前提とした道具である。

ニット製品では、寸法、柄位置、口位置、編み組織にズレが出た場合、単に廃棄するのではなく、解く、戻す、組み直すという判断が生まれる。特にローゲージでは糸量も多く、素材の存在感も強いため、修正判断はコストと品質の両方に関わる。

このような器具は、最新設備とは異なる。しかし、小規模工場に残る修正能力を示す重要な一次資料である。

編地を解くための木製器具
編地を解くための木製器具。修正、戻し、組み直しを前提とした小規模ニット工場の道具である。
CHAP.08

STEAM / INFRASTRUCTURE

蒸気設備は、仕上げ品質を支える基礎インフラである

ローゲージニットの仕上げでは、蒸気設備が重要な役割を持つ。編み上がった編地は、熱、湿度、乾燥によって寸法や輪郭が変化する。したがって、蒸気設備は単なる補助設備ではなく、製品寸法と風合いを安定させるための基礎インフラである。

特に、ワイヤー型によるセット工程では、形を合わせるだけでは不十分である。蒸気を通し、繊維を落ち着かせ、乾燥によって形状を安定させる必要がある。ここでも、設備と経験が一体で働く。

工場の評価は、見える主力機械だけでは不十分である。蒸気、保管、作業台、動線、修正道具まで含めて、初めて生産構造として把握できる。

工場内の蒸気設備
蒸気設備。セット工程と仕上げ品質を支える基礎インフラであり、ローゲージ製品の寸法安定に関わる。
CHAP.09

BACKYARD / STORAGE

保管環境も、生産構造の一部である

小規模工場の価値は、主力機械だけでは判断できない。資材、型、仕掛品、私物、保管棚が同じ建物内に存在することで、工程の連続性が維持される。

倉庫に置かれたサーフボードやゴルフクラブは東海林社長の私物である。コロナ以降は以前ほど使われていないというが、ここでは仕事と生活の時間が完全には切り離されていない。工場が地域の生活圏の中で維持されてきたことを示す記録でもある。

この混在は、単なる雑然さではない。地域の小規模工場では、仕事場、保管場所、修正場所、生活の時間が重なる。その環境が、柔軟な対応力と同時に、属人的な技術継承の難しさも抱えている。

倉庫内の資材と私物
倉庫に残るサーフボード、ゴルフクラブ、資材。仕事と生活の時間が重なる、小規模工場の空気が見える。
CHAP.10

PRODUCT / TECHNICAL TRANSLATION

紙の設計を、編地構造へ変換する

製品は、最後に突然現れるものではない。型紙、寸法、柄位置、糸、編み、検品、必要に応じた編み直し、表面加工、セット。その連続した判断の結果として形になる。

手書きの型紙と製品サンプルは、現場における翻訳資料である。ブランドやデザイナーが求める見え方を、編地構造、寸法、口位置、柄位置へ落とし込むための中間記録である。

素材の粗さ、古着的な表情、構造の違和感、仕上げの個体差を、製品として成立する精度へ落とし込む。その翻訳作業こそ、小規模ニット工場の価値である。

型紙と製品サンプル
手書きの型紙と製品サンプル。紙上の寸法、柄位置、口位置を、実際の編地構造へ移すための設計記録。
FIELD NOTE

LOCAL STRUCTURE, GLOBAL VALUE

マルトメリヤスの価値は、一つの特殊工程だけでは説明できない。

本質は、ローゲージ横編、編成データ、仕掛品管理、表面加工、ワイヤーセット、蒸気設備、解き直しの道具、保管環境、型紙確認が、近い距離で維持されていることにある。

世界基準で見たとき、小規模工場の価値は生産量だけでは測れない。複雑素材、少量試作、仕様変更、風合い調整、寸法修正に対して、どれだけ速く現場判断を戻せるかが重要になる。

伊達地方に残るこのような現場は、単なる下請け生産の一拠点ではなく、素材、構造、工程を接続する技術的な記憶装置である。本レポートは、その生産構造を記録するための一次資料である。

Text & Photography: Tsukasa Chiba

Recorded in Date City, Fukushima / April 2026

PLOTOTYPE — Studies in Material and Structure.